薬局M&Aマーケットと売却時期|宮城の薬局経営者が今考えるべき出口戦略
はじめに
近年、調剤薬局業界におけるM&A(企業の合併・買収)は急速に広がりを見せてきました。特に2010年代後半から2020年代初頭にかけては、大手ドラッグストアチェーンや調剤グループによる積極的な買収が相次ぎ、地方の中小薬局にも買収の打診が届くようになりました。
しかし、その熱気にも明らかな変化が見られます。かつて過熱していた薬局M&Aのマーケットは徐々に落ち着きを見せはじめており、売却時期を誤ると期待していた価格での譲渡が難しくなるケースもあります。
本コラムでは、宮城県の薬局経営者を対象に、「薬局M&Aの現在地」と「適切な売却タイミング」について、マーケット動向と今後の予測を交えながら詳しく解説します。
1. M&Aの熱気が落ち着きはじめた理由
かつて、薬局の営業権(のれん代)は、実質営業利益(EBITDA)×5年分で評価されるのケースもありました。たとえば、年間の実質営業利益が2,000万円の薬局であれば、営業権は10,000万円。これに在庫や設備などの資産が加味されて、総売却額が決まる、という構図です。
しかし、現在はどうでしょうか。実質営業利益の「5年分」では買われなくなってきており、「3年分」、あるいは「2年分」という条件提示も珍しくなくなってきました。これは、M&Aマーケットが熱狂期を過ぎ、成熟期から衰退期に入りつつあることを示す兆候といえます。
2. 営業権評価の変化が意味するもの
営業権とは、目に見えない価値、つまり「営業を続ければ将来得られるであろう利益」を買主が評価し、価格として支払うものです。この営業権の評価が下がっているということは、買主側が将来的な利益成長に対して慎重になっていることの表れです。
背景には、次のような要因があります:
- 薬局経営の利益率が下がっている(技術料の伸び悩み)
- 医師の高齢化により、門前医院が将来的に閉院のリスクを抱えている
- 処方箋の広域化により、特定の立地優位性が薄れている
- 厚生労働省の医薬分業政策の変化(地域連携薬局・専門医療機関連携薬局の認定制度など)
これらの状況下では、買主が将来的なリターンを見込みづらくなり、営業権評価も控えめになっていくのは当然の流れです。
3. マーケットのライフサイクルとM&Aの「出口戦略」
マーケットには「成長期 → 成熟期 → 衰退期」というライフサイクルがあります。
薬局業界は、2000年代に医薬分業が加速する中で成長期を迎え、2010年代に成熟期に入りました。特に調剤薬局の店舗数は全国でピークに達し、競争が激化。2020年代に入ると、人口減少や後継者不足などの構造的課題により、徐々に「衰退期」に差し掛かりつつあります。
- 成長期(2000〜2010年):新規開業・薬局チェーンの急拡大
- 成熟期(2010〜2020年):競合激化、M&A市場の活性化
- 衰退期(2021年以降):薬価改定・人材不足・人口減
マーケットが衰退期に入ると、売り買いが活発化するのは自然な流れです。経営者たちは、「これ以上価格が落ちる前に売っておきたい」と考えるからです。
これは株式市場と似たような構造です。今後、営業権が「2年分」、あるいはそれ以下になれば、譲渡側にとっては大きな損失となりかねません。つまり、“まだ値がつくうち”に出口を意識することが、経営戦略上極めて重要なのです。
4. 売却タイミングを誤ると「営業権ゼロ」もありうる
特に注意したいのは、門前の医師の年齢や後継者の有無です。
薬局の価値は、単に立地や売上だけでは決まりません。門前医療機関の安定性が、営業権に大きく影響します。
たとえば、門前の院長が70代で後継者不在の場合、買主は「数年後には処方箋が激減する可能性がある」と判断し、営業権をゼロ査定にすることもあります。つまり、営業利益が出ていても、将来の見通しによって評価が著しく下がる可能性があるのです。
逆に、門前医師がまだ50代で、地域での評判も良く、安定的に患者が来ている薬局であれば、高く評価されやすくなります。
5. 売却を検討するなら「早めの準備」が不可欠
「まだ売らなくても大丈夫」「もっと利益が出てから」と思っているうちに、売却額がどんどん下がってしまうケースは少なくありません。
特に宮城県内では、これから人口減少がさらに加速し、患者数も減少していくエリアが増えると予測されています。
薬局の価値は、「高く売れる時期」に動くのが鉄則です。売却を意識し始めた時点で、専門家に相談し、早めに準備を始めることが、経営者の選択肢を広げるカギとなります。
6. 宮城で薬局M&Aを成功させるために
宮城県で薬局の譲渡を検討されている経営者の皆様へ。
当ステーションでは、地域に根ざしたM&A支援を通じて、薬局経営者の皆さまの「納得のいく譲渡」を実現するお手伝いをしています。大手では取りこぼしてしまう小規模薬局や個人間M&Aにも対応し、地域医療の未来を守ることを使命としています。
適正な評価、柔軟なマッチング、そして経営者の想いを大切にした譲渡——そのためには、まずは一度ご相談ください。
まとめ
薬局M&Aのマーケットは、すでにピークを過ぎ、価格も落ち着きつつあります。今後は営業権の評価がさらに下がり、実質利益の2年分程度でしか評価されないケースも出てくるでしょう。
また、門前医師の年齢や後継者の有無など、地域に根ざした視点での価値判断がますます重要になります。
宮城県で薬局を経営されている方は、譲渡のタイミングを見極めるためにも、早めの情報収集と専門家との連携が欠かせません。
「値がつくうちに売る」という選択が、未来の後悔を防ぐための第一歩です。