はじめに
2026年度の調剤報酬改定に向け、厚生労働省は2025年9月の中央社会保険医療協議会(中医協)総会において、調剤技術料や薬学管理料の評価をめぐる議論を本格的に進めています。調剤報酬改定は、薬局経営に直結する最重要テーマであり、特に地域医療を支える中小薬局にとって、経営の継続可能性を左右する大きな分岐点となります。
宮城県においても例外ではありません。仙台市を中心に大手チェーン薬局が勢力を拡大する一方、石巻市や登米市、白石市など地方エリアでは後継者不足や人口減少によって、薬局の存続が危ぶまれる地域が増えています。今回の改定動向を理解し、地域事情に即した対応を考えることが、宮城の薬局経営者にとって極めて重要になります。
本稿では、2026年調剤報酬改定に関する最新の議論を整理するとともに、宮城県の地域事情を踏まえた影響と対応の方向性について詳しく解説します。
1. 2026年調剤報酬改定の基本的な論点
厚労省が提示した論点は、大きく以下の2点です。
- 調剤技術料(調剤基本料、地域支援体制加算、後発医薬品調剤体制加算など)の評価
- 薬学管理料(調剤管理料、かかりつけ薬剤師指導料など)の評価
診療側は「確実な賃上げを実現するために、調剤基本料で薬局を支えるべき」と主張しているのに対し、支払い側は「調剤基本料は可能な限り一本化し、機能に応じて加算や減算で差をつけるべき」と強調。両者の意見は平行線をたどっています。
この議論は、薬局の経営基盤を安定的に支える方向に向かうのか、それとも機能別評価によって薬局間格差を拡大させるのか、今後の改定の方向性を占う大きな分かれ目となります。
2. 宮城県の薬局経営環境と改定の影響
2-1. 仙台市と地方都市の二極化
宮城県内では、仙台市青葉区・泉区など都市部を中心に大手チェーン薬局が集中しています。門前医療機関との連携も強く、調剤報酬改定で新たに加算が重視される流れになったとしても対応可能な体制を整えている薬局が多いのが特徴です。
一方で、石巻市、気仙沼市、栗原市などの地域では、人口減少や医師不足が深刻化しており、門前医療機関の医師が高齢化しているケースも少なくありません。こうした地域では「薬局があるのに処方箋が減っていく」という構造的な問題が発生しており、報酬改定で基本料が引き下げられたり、要件が厳格化されたりすれば、経営に直撃するリスクがあります。
2-2. 後発医薬品調剤体制加算の見直し
宮城県内でも後発品使用率は全国平均と同水準に達していますが、供給不安によって薬剤の入手が難しいケースも目立ちます。特に個人薬局では、十分な備蓄が難しく「加算を取れない薬局」が生まれる可能性があります。
支払い側からは「加算を廃止し、減算のみにすべき」との意見も出ており、仮に制度変更が行われれば、地方薬局はさらに厳しい立場に追い込まれることになります。
3. 薬学管理料と「かかりつけ薬剤師」の評価
「かかりつけ薬剤師指導料」や「かかりつけ薬剤師包括管理料」は、地域で薬剤師が対人業務をどれだけ担えるかを評価する指標です。
宮城県では十分に広がっていないのが現状です。理由としては以下が挙げられます。
- 医師や病院との関係性が強く、薬剤師が患者に積極的に関わる文化が根付いていない
- 薬剤師の人員不足で、服薬指導や在宅訪問に十分なリソースを割けない
- 患者側も「薬はどこの薬局でも同じ」という意識が根強い
4. 宮城の地域事情を踏まえた課題
4-1. 門前医療機関の高齢化と承継問題
宮城県内では、門前クリニックの医師が70歳を超えているケースが珍しくありません。後継者がいない場合、医師の引退と同時に処方箋枚数が激減し、薬局経営が立ち行かなくなるリスクが高まります。
報酬改定は薬局の経営基盤を揺るがす要素ですが、それ以上に門前医療機関の動向が地域薬局に大きな影響を及ぼします。したがって、薬局経営者は「自院の門前医師の年齢や後継者事情」を把握しておくことが不可欠です。
4-2. 人口減少地域における薬局の存続
宮城県北部や沿岸部では、人口減少によって処方箋枚数が減少し続けています。このような地域では、調剤報酬の一本化や加算の厳格化が進めば「経営不能に陥る薬局」が続出する可能性があります。
5. 今後の対応策
宮城県の薬局経営者が取るべき対応策は、大きく以下の3点です。
- 調剤基本料の一本化に備えた経営体力の強化
- 複数店舗展開やM&Aによる規模の拡大
- 業務効率化による固定費削減
- かかりつけ薬剤師機能の充実
- 在宅訪問や服薬フォローの強化
- 患者との関係性を深め、指名率を高める
- 門前医療機関との関係性の見直し
- 医師の年齢や後継者事情を把握し、リスクに応じた戦略を準備
- 必要に応じて、異なる診療科や医療機関との連携を模索
おわりに
2026年調剤報酬改定は、単なる点数調整にとどまらず、宮城県内の薬局経営にとって生き残りを左右する重大な転換点です。仙台市のような都市部薬局と、石巻市や大崎市のような地方薬局では、影響の度合いが大きく異なります。
「報酬改定そのもの」だけでなく、「門前医療機関の将来」と「地域人口の推移」を冷静に見据え、経営判断を下す必要があります。今後の動向を注視しつつ、必要な準備を早めに整えることが、宮城県の薬局経営者に求められています。

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